鹿の角は、どこから来るのか。|犬用の鹿角ができるまで
Aug 23, 2026
犬用の鹿の角には、大きく二つの出どころがあります。ひとつは春に自然に落ちた角(落角)。もうひとつは、獣害対策で捕獲された鹿から外された角です。
そして京都・舞鶴では、後者のほとんどが行き場を失っています。
この記事は、鹿の角がどこから来て、どう扱われ、どこへ消えているのかという話です。
鹿の角は、どこから来るのか
犬用の鹿の角とは、ニホンジカやエゾシカのオスの角を洗浄・熱処理し、犬が噛める大きさに切り分けたものです。
角の入手経路は二つあります。
| 出どころ | 特徴 |
|---|---|
| 落角(自然に落ちた角) | 春に山や林床で拾われたもの。表面の状態は個体差・環境差が大きい |
| 捕獲個体の角 | 獣害対策で捕獲された鹿から外されたもの。捕獲・搬入の記録をたどれる場合がある |
流通している商品の多くは北海道のエゾシカです。エゾシカは体が大きく、角も太い。だから商品にしやすい。
一方で、本州のニホンジカの角は、そもそも回収されていないことが多い。
舞鶴では、角は「切られて終わり」になっている
私たちが鹿肉を仕入れている京都・舞鶴の現場で、こんな話を聞きました。
捕獲された鹿を市の冷凍施設に搬入するとき、角は切り落とすことになっているそうです。理由は単純で、角が袋を破ってしまうから。そしてトラックに積むとき、角が張り出していると邪魔になるから。
つまり、角は肉を運ぶうえでの障害物として扱われている。切られた角がその後どうなるかというと、
- 犬を飼っている猟師さんは、自分の犬に与える
- 立派なものは家に飾る
- それ以外は、溜まっていく
「いっぱい溜まってる人もいる」というのが、現場の実感でした。
捨てられているとまでは言いません。ただ、活かされてはいない。
鹿の角は、なぜ生え変わるのか
角があるのはオスだけです。そして毎年、生え変わります。
春先に根元から自然に落ち、そこからまた新しい角が伸びる。夏のあいだは表面がやわらかい皮膚(袋角)に覆われていて、秋にかけて硬くなっていきます。
だから「山で角が落ちている」のは異常なことではなく、春の風物詩のようなものです。
そして、角の形はその鹿が生きた年数を映します。若い個体の角は一本の棒に近く、年を重ねた個体の角は枝分かれが増える。舞鶴の猟師さんの言葉を借りれば、枝が三段に分かれた立派な角は「何年か生きたやつ」ということになります。
犬用として使えるのは、この、ある程度育った角です。小さいものは商品にならない。ここが、角がまとまった量で集まりにくい理由のひとつでもあります。
山で拾った角を、犬に与えていいのか
おすすめしません。
拾った落角は、どれくらいの期間、どんな環境に置かれていたかが分かりません。土に触れ、雨に濡れ、他の動物が触れている可能性もあります。表面の汚れを落としただけでは、衛生的な状態を担保できません。
市販の犬用鹿角は、洗浄と熱処理を経て、切り口を丸く加工してあります。同じ「鹿の角」でも、拾ったものと商品はまったく別のものだと考えてください。
なお「鹿の角に寄生虫はいるのか」と心配される方がいますが、角は骨に近い組織で、筋肉のように寄生虫が寄生する場所ではありません。気をつけるべきなのは、寄生虫より表面の汚染と、硬さそのものです。
犬に鹿の角を与えるときの注意点
ここは、売り手の都合ではなく、きちんと書いておきたいところです。
① 硬すぎる場合がある
鹿の角は非常に硬く、噛み方によっては歯が欠けたり折れたりすることが指摘されています。とくに顎の力が強い犬、勢いよく丸呑みしようとする犬は注意が必要です。
心配な場合は、まず半割りタイプ(断面が露出しているもの)から試す、獣医師に歯の状態を見てもらってから決める、といった進め方があります。
② 与えっぱなしにしない
飼い主さんが見ていられる時間だけにしてください。数時間ひとりで噛み続ける前提の道具ではありません。
③ 小さくなったら替える
飲み込める大きさになったら、そこで終わりです。惜しまずに交換してください。
④ 子犬・シニア犬には慎重に
歯が生え変わる時期の子犬、歯や顎が弱ってきたシニア犬には向きません。かかりつけの獣医師に相談してから判断してください。
⑤ サイズと形を、体格で選ぶ
市販の犬用鹿角は、長さと割り方で分かれています。
| 形 | 状態 | 向いている犬 |
|---|---|---|
| 丸ごと(割らない) | 断面が出ていない。いちばん硬い | 噛む力が強い中〜大型犬 |
| 半割り | 縦に半分。内側の髄が露出している | はじめての犬。中身に興味を持ちやすい |
| 四つ割り | さらに細い。硬さが下がる | 小型犬、噛む力が控えめな犬 |
長さの目安は、小型犬で8〜10cm前後、中型犬で10〜15cm前後、大型犬で15〜20cm以上とされることが多いです。ただしこれは体重だけで決まりません。噛み癖の強さのほうが影響します。
短すぎると飲み込む事故につながります。口の幅より明らかに長いものを選んでください。
⑥ 「効能」の話は切り離して考える
鹿の角は、人の世界では古くから素材として使われてきました。ただ、それを犬用のおやつの効能としてそのまま語ることはできません。
私たちは、噛むことそのものの意味と、素材の出どころ以上のことは言わないつもりです。
鹿の角は、いくらくらいするのか
犬用として売られている鹿角は、1本あたりおよそ1,000円〜3,000円台が中心です(2026年8月時点、主要通販サイトの実売価格帯)。サイズが大きいほど、また丸ごと1本のほうが高くなる傾向があります。
「山で拾えるものが、なぜその値段なのか」と思われるかもしれません。値段の中身は、角そのものではなく回収・洗浄・熱処理・切断・端の研磨という手間です。
そして回収がいちばん難しい。角は一頭から二本しか取れず、商品になるサイズまで育った個体は限られ、しかも山や猟師さんの手元にばらばらに存在しています。まとめて集める仕組みが、そもそもない。
これが、本州の角がほとんど流通していない理由です。
これから、私たちがやろうとしていること
Rawtoは、舞鶴で行き場を失っている角を、犬のための商品にする準備を始めました。
まだ何も決まっていません。どのサイズで切るのか、どう洗浄するのか、どこまで手をかけると噛みやすくなるのか。試して、失敗して、また試す段階です。
その過程を、隠さずに書いていきます。うまくいかなかった試作も、そのまま載せます。
次は、実際に角を集めるところから始めます。
京都・舞鶴の山で、獣害対策のために捕獲された鹿。その肉はすでに、私たちのジャーキーとふりかけになっています。残っていたのが、角でした。
命を、最後まで。
よくある質問
Q. 犬に鹿の角を与えても大丈夫ですか?
洗浄と熱処理がされた犬用の鹿角であれば、噛むためのアイテムとして与えられます。ただし非常に硬いため、歯が欠けたり折れたりする可能性が指摘されています。与えるときは目を離さず、飲み込める大きさになったら交換してください。子犬・シニア犬・歯に不安のある犬には、獣医師に相談してから判断することをおすすめします。
Q. 山で拾った鹿の角を犬に与えてもいいですか?
おすすめしません。拾った角は、どれくらいの期間どんな環境に置かれていたかが分からず、衛生状態を担保できません。市販の犬用鹿角は洗浄・熱処理・切り口の加工を経ています。
Q. 鹿の角はなぜ生え変わるのですか?
角があるのはオスの鹿だけで、毎年春先に根元から自然に落ち、そこから新しい角が伸びます。夏はやわらかい皮膚に覆われ、秋にかけて硬くなります。年を重ねた個体ほど枝分かれが増えます。
Q. 鹿の角に寄生虫はいませんか?
角は骨に近い組織で、筋肉のように寄生虫が寄生する部位ではありません。留意すべきなのは表面の汚染と、素材そのものの硬さです。
Q. 捕獲された鹿の角は、いま何に使われているのですか?
多くは活用されていません。京都・舞鶴では、冷凍施設への搬入時に角を切り落とす運用があり、切られた角は猟師さんの手元に残るか、そのまま溜まっていくのが実情です。Rawtoはこの角を犬のための商品にする準備を進めています。