狩猟免許を取った、綾部のひと。
Aug 23, 2026
週に二日か三日、綾部から舞鶴の加工場に通ってくる女性がいます。
去年、狩猟免許を取りました。それまで山とは縁のない暮らしをしていた人です。
私たちのフードを作っている猟師さんのところに、ある日、知り合いから話が来たそうです。狩猟を覚えたいという人がいる。教えてやってくれないか。
来たのは、大阪から綾部に移り住んだ女性でした。畑を少しやっている。生活のために何かを始めたいという話ではない。ただ、覚えたい。それだけでした。
「ゼロから、罠のかけ方から教えてほしい」
そう言われたそうです。
教える側にも、事情がある
猟師さんはひとりで加工場を回しています。捕獲された鹿を運び、解体し、乾燥機にかける。ひと月に作れる量には限りがあって、体力のほうが先に音を上げる。
人手が欲しくないわけがない。ただ、教えることは、その日の仕事を止めることでもあります。
ひとりなら一日に二、三頭を解体できる。教えながらだと、一頭に丸一日かかる。
それでも教えることにしたのは、彼女が「途中まで」を望まなかったからだと思います。ゼロから十まで、全部やりたい。そう言った。
一頭を、ひとりで
いま彼女は、一頭をひとりで解体できるようになりました。
猟師さんの言い方はそっけないものでした。「遅いけど、一匹ばらしといてって言ったら、できるようになった」。
一年です。
その代わりのように、彼女は加工場のパソコン仕事を引き受けています。書類を作ったり、データを整えたり。そちらはむしろ本職に近いらしく、手が早い。
お金のやり取りは、ほとんどありません。教える。手伝う。それで釣り合っている、という関係です。
技術は、書類には残らない
この話を聞いていて、思ったことがあります。
鹿を解体する技術は、教科書で完結しません。どこに刃を入れるか、どこで手を止めるか、この個体は何日前のものか。判断のほとんどが、隣で見ていないと伝わらない種類のものです。
そして、それを教えられる人は多くない。舞鶴でも、限られています。
猟師の高齢化はよく語られますが、本当に減っているのは人ではなく、伝わる場所のほうかもしれません。
週に二、三日。誰かが山に通ってくる。それだけのことが、実はかなり貴重なことなのだと、私たちは思っています。
私たちができること
Rawtoは、フードを作る会社です。狩猟の担い手を育てる立場にはありません。
できるのは、買い続けることだけです。
作った分が確実に売れる。翌月も、その次の月も注文が来る。それが分かっていれば、猟師さんは人を受け入れる余裕を持てる。教える時間を取れる。
私たちが「長く付き合いたい」と言っているのは、そういう意味です。おいしいものを安く仕入れて、あとはご自由に、では続きません。
彼女がこの先どうするのかは、私たちには分かりません。ただ、一年でひとり増えたことは事実です。
山の話は、山にいる人がいちばん知っています。私たちは、その隣を歩いています。
MAIZURU LETTERS ─ 舞鶴からの便り。
記事中の人物については、ご本人の意向により個人が特定される情報を伏せています。